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Bop Till You Drop(8th) [ライ・クーダー(Ry Cooder)]



Bop Till You Drop/Ry Cooder
(邦題『バップ・ドロップ・デラックス』)
(1979)
★★★☆☆

フォーク、カントリー、テックス・メックス、ジャズなど、アルバムごとに狙いを絞ってさまざまなアメリカの伝統音楽を再発見し、独創的な視点から再構築してきたライ・クーダーが、次にドアを叩いたのはR&Bの世界だった。ここには、ライ・クーダー流の解釈を経たファンキーでソウルフルな黒人音楽が展開されている。それはつまり、白人による黒人音楽の消化/昇華という、ロック・ミュージックの本流が挑んできた課題とライの活動とが、ついにぴたりと重なったということに他ならない。たんなるマニアックなルーツ・ミュージック研究家という、玄人受けはするが商業的には存在価値を見出されにくい、決して得とはいえないイメージを脱ぎ捨てる時が、ようやくやってきたのだ。遅ればせながら、ではあるが。

とはいえ、ここで挑戦されているのは、ライにとってまったく未知の音楽というわけではない。黒人音楽ということならば、例えばブルース的な土臭さやゴスペル的な黒さのような武器は、すでに過去のアルバムにおいて獲得され、磨きこまれている。いわばかなりしっかりと強固な土台が『Paradise And Lunch』や『Chicken Skin Music』あたりで完成しており、ここではそれにR&Bのファンキーなリズムを加えればいいだけの状態だった、ということができるだろう。逆にいえばこのことは、すでにある程度完成した世界を土台にするぶん、ゼロから何かを構築していくスリリングさにはどうしても欠けるということを意味する。例えば、『Jazz』のような作品とは違って、だ。でもそれは、単純にどちらがいいという話ではない。ローテーションの柱を任せているベテランのエース・ピッチャーと、新人離れした速球でばったばったと三振の山を築くルーキー投手の、どちらを次の試合で使うべきかという問題みたいなものだ(違うかな?)。答えは単純には決められないし、結果なんてやってみなければわからない。同時に2つの試合を戦うことはできない。そういうことだ。

ともかく、ライはこのアルバムにおいて、これまで築いてきたものに加えて、いくつかの仕掛けを施している。ニール・ヤングのバックバンドであるストレイゲイターズの一員でもあり、J・J・ケイルからビーチ・ボーイズまで数々のセッションをこなしてきたナッシュビルの名ベーシスト、ティム・ドラモンドの起用は、この作品の目玉の一つである。ドラモンドが作り出す粘っこいファンキーなリズムは、ライのスライド・ギターやドラムのジム・ケルトナーの西海岸っぽさと組み合わさるとちょっとリトル・フィートあたりを連想させるところもあるが、それよりさらに、ストレートに黒い。本作唯一のオリジナル曲で、ライとドラモンドが共作した「Down In Hollywood」なんて、ほとんどミーターズ(ニュー・オーリンズの大御所バンドで、Dr.ジョンのバックなどでも有名)じゃないかと思う。

もう一つ、その「Down In Hollywood」と、これまた超ファンキーな「Don't You Mess Up A Good Thing」に参加しているチャカ・カーンもまた、このアルバムに強烈な「色」を加えている存在である。ライのボーカルはご存知の通り、人柄の良さとイコールの「味」が最も大きな魅力だし、ボビー・キングはうまいんだけど、ちょっとスイートすぎるきらいもある。そこへいくと、チャカ・カーンのパンチの効いたソウルフルな歌声は、これまでのライの作品には存在しなかったものだ。たった2曲だが、これがあるとないとでは、このアルバムの印象はまったく違ったものになったかもしれない。

まったく逆の言い方もできる。どうせなら、どうして全曲チャカ・カーンのボーカルをフィーチャーしなかったんだろうか、というのが、じつはこのアルバムに対して僕が長年抱いている疑問の一つなのだ。

いや、本当はボーカルの問題ではないのだ。このアルバムには、どこか統一感のようなものが足りない気がする。もしも全曲、先のチャカ・カーン参加の2曲や「The Very Thing That Makes You Rich」のようなファンキー・ミュージックで攻めきっていたらものすごい傑作アルバムになったのでは、と思うのだが、実際には先に記した「土台」に頼ったナンバーも多く、アルバムとしてのカラーの徹底を欠いているような気がする。「バラエティーに富んだ」という陳腐な表現で逃げることを許せないものが、そこにはある。

例えば、アイク&ティナ・ターナーのレパートリーをギター・インストゥルメント・ナンバーに仕上げた「I Think It's Going To Work Out Fine」などは、ほとんど『Paradise And Lunch』に入っていてもおかしくないナンバーだ。デビッド・リンドレーと、まさに阿吽の呼吸でギターを絡ませていくそのプレイ自体は極上の味わいを持っているが、むしろそれは、この場では唐突に感じてしまう。「これ、『Paradise And Lunch』のアウトテイクだってよ」といわれて、へえ、そうなんだと信じてしまいそうになる曲が入っているのは、決して喜ぶべきことではないと思う。

当時の、このアルバムが制作された背景に、そうしたイメージの徹底を許さなかった事情があるかどうかを、僕は寡聞にして知らない。だが、ライのバランス感覚や、気心の知れたメンバーとのリラックスしたプレイを大切にしたがる気持ちが、このアルバムに対する僕の不満の源になっているような気はする。いずれにせよ、もしもライ・クーダーのベスト・アルバムを編むとしたら絶対に入れたくなる曲がたくさん入っているにも関わらず、ライの最高傑作に推すことはなぜかためらってしまう、僕にとってこの『Bop Till You Drop』は、そんなアルバムなのだ(しかし今気づいたが、これだけのキャリアがあるというのに、ライ・クーダーにはベスト・アルバムが存在しないとは!)。

もう一つだけ。僕が持っているこのアルバムは日本盤のアナログ・レコードなのだが、帯やライナー・ノーツの余白など、あちこちに「デジタル・レコーディング」であることが嬉々として謳われている。どうやら磁気テープを用いない録音は当時としては相当に珍しい最先端技術で、このアルバムはまさにその走りだったようなのだ。そのせいなのかどうか、じつはこのアルバム、音がとても悪い。信じられないくらい、悪い。具体的には、各楽器の音が細く痩せており、厚みがまったくない。かなりひどい代物なのだ。現在発売されているCDで、そのあたりがリマスタリング等により改善されているとしたら、ぜひ聴いてみたいが、どうなんだろう? もしかしたら、それだけで★1つ分くらい、すぐに評価を上げたくなったりしてね。

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