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Jericho(10th)~Jubilation(12th) [ザ・バンド(The Band)★完]

解散から5年あまり経った1983年にロビー・ロバートソン抜きで再結成され、ツアーに出ていたザ・バンドは、1986年にリチャード・マニュエルを自殺で亡くすも、活動は続行。紆余曲折の末、3枚のアルバムを残す。しかし1999年にリック・ダンコが死去。それ以降、活動はストップしたままである。

先に僕の考えを述べておくと、これは正確にはザ・バンドではない。「元ザ・バンドのメンバーの一部が組んだ新ユニット」なのだ。でも、その新ユニットの名前が「ザ・バンド」となっていて、他でもない本人たちがそう名乗っていて、そして一般的にも「ロビー・ロバートソン抜きで再結成されたザ・バンド」という認識なのだから、これはもう僕がどうこう言ったところでしかたない。心を鬼にして、ザ・バンドの作品として扱おうじゃないか。

……なんてカッコつけてはみたが、よく考えてみたら、どのみち客観的な評価なんてできるわけがないのだ。

じつはいま頭の中に、新しい世代のリスナーが、ザ・バンドのすべての作品の中でこの3枚から先に聴き始めるという状況を設定してみたのだが、結局僕にはその状況をうまく想像することができなかった。それは僕の想像力をはるかに超えた作業で、僕が語るべき「状況」ではないのだ。

価値とは、結局はすべて相対的なものだ。「絶対評価」なんて言葉は「不可能」の同義語でしかない。世界はつまりそんな相対的な価値の差異が集積した巨大なネットワークであり、僕はその中のほんの一部に関与しているにすぎない。僕という個は、価値の創造主などではなく、「差異」を生み出すための、駒の一つでしかないのだ。パソコンのキーボードを前にして、僕はそんな無力感に襲われる。少なくとも、そのくらい難しいことなのだ、「再結成後のザ・バンドの作品を評価する」という行為は。そしていずれにせよ、僕にできることは、とびきり個人的な感想を述べることだけなのだ。


Jericho/The Band
(邦題『ジェリコ』)
(1993)
★★★☆☆

当初、再結成されたザ・バンドはCBSと契約してアルバムを制作していたが、1987年に発表されたロビー・ロバートソンのソロ・アルバムの売れゆきが芳しくなかったことなどから、商売的に見込みがないと判断され、その作品はお蔵入りとなってしまう。結局、1993年になってようやくマイナーなレコード会社からリリースされることになり、それがこの『Jericho』というわけなのだが、基本的にはほとんどのトラックがCBSの音源とはまた別の、新たに録られたもののようだ。

楽曲は、サポート・メンバーであるジム・ウェイダーらが書いて提供していたり、ボブ・ディランやマディー・ウォーターズなどのカバーだったりで、自作曲は2曲しかない。それも、リヴォン・ヘルムがサポート・メンバーのリチャード・ベルやプロデューサーのジョン・サイモンらと共作したものだ。ザ・バンドのカバー・アルバムというと『Moondog Matinee』を思い浮かべるが、あのときは自分たちのルーツ探しというテーマにしたがって古い楽曲がチョイスされていた。というか、カバーという手法自体に表現としての意図が込められていたのだが、ここでは、カバーはたんに楽曲の頭数を揃えるための手段でしかない。そんなテーマ性の薄さは、そのままこのアルバムの薄味な印象に直結している。サウンドも同じで、演奏は丁寧だが逆に言えばパワーに欠けているし、アレンジにも昔のようなスリリングな緊迫感はない。だが、聴いているうちに、それはそれでいいんじゃないだろうか、という気にもなってくる。それは、ここに漂っているのが、1960年代の重さや1970年代の閉塞感ではなく、「現在」の空気だからだ。昔の作品が持っていた豊穣さや濃密さとは比べようもない希薄さだが、間違いなくその空気は「現在」に漂っているものだ。そして、僕はそのことを支持したい。

自作の2曲のうち、アルバムのタイトルにもなっている「The Caves Of Jericho」はケンタッキーでのジェリコ炭坑での事故を歌ったもので、なかなかの名曲。ところがもう1曲の「Move To Japan」は……これは良くないなあ。いわゆるガイジンから見た日本を歌った曲で、ドラが鳴ったりするサウンドも「ホンダ」や「スシ・バー」が登場する歌詞も、思わず失笑してしまう類のもの。この曲のせいで、アルバムの印象が確実に一段階、軽くなってしまっている。たぶん日本人以外にとっても、同じ印象なんじゃないだろうか?

過去の作品との繋がりを探すならば、やはりいちばんテイストが近いのは『Islands』だろう。リック・ダンコが歌い上げる「Too Soon Gone」なんて、『Islands』に入っていてもまったくおかしくないサウンドだと思う。そして、全体的に『Islands』よりも楽曲の粒は揃っている。これはもう、気合いの差、アルバムにかける思いの差としか言いようがない。ちなみにリチャード・マニュエルが歌う「Country Boy」は1985年に録音されていたもの。ライナー・ノーツを読んで先に知ってはいたが、それでも最初に聴いたときは、歌声が流れた瞬間ドキッとしたのをいまでも覚えている。

『Jericho』発売の翌年、ザ・バンドはツアーのため来日している。1994年のことで、僕は渋谷クアトロのライブを観に行った。箱が小さかったこともあるが、アコースティックな音作りが印象的なそのライブは、とてもインティメイトで楽しめるものだった。あれを観ることができて本当によかった。いまでも心からそう思っている。


High On The Hog/The Band
(邦題『ハイ・オン・ザ・ホッグ』)
(1996)
★★☆☆☆

再結成2枚目もまた、古い曲のカバーやサポート・ミュージシャンの提供曲がほとんどで、自作曲は1曲のみ。それも、CBSで録音してお蔵入りになっていたものだという。そして正直、楽曲が弱いというのは、このアルバムから受ける印象のうち最も大きなものの一つだ。

いやしかし、楽曲自体にインパクトが欠けているというその印象は、作り手側からすればある程度は計算済みなのかもしれない。全編にホーンが配された、楽しげできらびやかなサウンドを聴いていると、そんな気にもなってくる。楽曲ではなく、サウンドを楽しむための作品なのだから、ということだ。

ところで不思議なことに、この「楽曲が弱い」というのは僕の『Cahoots』に対する評価と重なっている。そして『Cahoots』もまた、ブラスを導入したテンションの高いサウンドが特徴のアルバムだったのだ。ただ『Cahoots』にあって、ここに欠けているものがある。時代を動かすような決定的な楽曲を生み出さなければならないというプレッシャーと戦う、ロビー・ロバートソンの姿である。その苦闘の欠落が(良い意味でも悪い意味でも)再結成後のザ・バンドの最大の特徴なのだとしたら、この『High On The Hog』は最も「再結成ザ・バンド的」な作品と言えるかもしれない。

先のような要素を欠いたザ・バンドの音楽は、必然的に南部の牧歌的ロックン・ロールを指向するリヴォン・ヘルムを中心とした、懐古的なものへと近づいていく。そこに残るのは、言ってみれば『Moondog Matinee』におけるリヴォンがボーカルをとるナンバーだけを集めたような作品だ。逆に言えば、ザ・バンドのそういった要素が好きなリスナーにとっては、それなりに楽しめるアルバムなのかもしれないが。

さて、このアルバムの聴きどころの一つに、かつてボブ・ディランと演った「Forever Young」の再演がある。結論から言うと、ここでの演奏はスローな方のバージョンで、それも『Planet Waves』というよりは『The Last Waltz』のバージョンに近い印象だ。逆に言えば……そう、新しい解釈は特にされておらず、ただたんにロビーのギターの不在を感じてしまう演奏ということだ。これは正直、つらい。これならやらなきゃよかったのに、と思ってしまうのは僕だけだろうか?

リチャード・マニュエルが自ら命を絶つ前年、ウッドストックの小さなカフェで歌ったライブの音源からとられたのが「She Knows」だ。音質の悪さも含めて明らかに他のトラックからは浮いているし、この時点で亡くなってからもう10年が経っていたリチャードの歌声を聴くのは、これまた別の意味でつらいものがある。ここに収録する意味があったのだろうか、という疑問も含めてだ。ただ、当時はこのトラックだけのためにこのアルバムを購入するという人も多かったかもしれないが、現在はライブの模様を丸ごと収めた『Whispering Pines』というCDが出ている。もちろん「She Knows」もそこで聴くことができる。


Jubilation/The Band
(日本盤未発売)
(1998)
★★★☆☆

前作の後、リヴォン・ヘルムの身に大変なことが起こる。なんと喉に咽頭ガンが発見されてしまうのだ。治療の結果、喉は一応治ったが、その代償としてリヴォンはあの力強い声を失い、別人のような嗄れた声しか出せなくなってしまう。またリック・ダンコは1997年、ダンコ・フィヨルド・アンダーセンの活動で来日中、米国にいる妻に、ホテルにヘロインを送らせた罪で逮捕され、裁判で有罪となり、強制送還されてしまう。そんなゴタゴタを経て発表されたこの『Jubilation』は、しかし再結成後の3枚の中では最も充実した内容を持つ快心の一作となっている。

このアルバムが再結成後の過去2作と異なっている点は、大きく2つあると思う。ひとつは、全11曲中なんと8曲が、共作も含めたオリジナル曲となっている点だ。そしてもうひとつが、リヴォン・ヘルム色が薄まり、かわりにリック・ダンコ色が強くなったことである。

もともと再結成後のザ・バンドの中心はリヴォンだった。そのリヴォンは表現の主軸を楽曲作りには置かない、根っからのライブ派ミュージシャンだが、ここにきてそのリヴォンの体調不十分もあり、自然とリック・ダンコの比重が高まったのだろう。このアルバムではダンコが曲を作り、そして歌うシーンが増えている。そして、偶然のことながらそのバランスが、とてもいいところで均衡を保っているのだ。そう、まるで昔のザ・バンドのように。

ロビーはいない。リチャードも亡くなった。「均衡」を保つべき要素自体は、数も内容も昔とは違っている。しかし、要素間の相互作用のあり方、バランスの取り方、つまり具体的に言えば「複数の人間で音楽を作り出す」という行為に求められるマジックは、いつの時代も変わらない。そして、それこそが「バンド」ってやつなのだ。少なくとも僕はこのアルバムに、昔のザ・バンドに通じる(そして解散後のザ・バンドやロビー・ロバートソンが失ってしまっていた)この「バンド」のマジックを感じることができた。偶然といえば偶然だし、リヴォンの声という代償はあまりにも大きい。しかし、ここに流れている名状しがたい幸福感に似たものは、たぶんそういう類のものなのだと思う。

もう一つ、このアルバムの聴きどころとなっているのが、エリック・クラプトンやボビー・チャールズ、ジョン・ハイアットといった「旧友」ともいえるミュージシャンたちの参加である。クラプトンがギターを弾き、ボビーが歌で参加した「Last Train to Memphis」は間違いなくこのアルバムのベスト・トラックだ。名曲ではなく名演(いや駄作だと言っているわけではないので念のため)。そういう意味では、このアルバムを象徴するトラックと言っていい。ジョン・ハイアットが自作曲を歌った「Bound By Love」も、ものすごくいい。地味な組み合わせだが、昔からハイアットも好き(『Bring The Family』とか最高ですよ、マジで)な僕にとっては、夢の共演と言ってもいいし、そう言えるだけのトラックに仕上がっている。そして、そうしたミュージシャンが参加することで生まれたバラエティー感もまた、この作品にとっては大きなプラスとなっている。繰り返すが、まさしくマジックである。

僕はこの作品、★4つをつけようかどうしようか、さっきから4時間くらい迷っている。で、結局はやっぱり★3つとした。多くは語るまい。そういうことだ。さんざん迷ったということも含めて。僕にできることは、とびきり個人的な感想を述べること、それだけなのだ。

このアルバムが発表された翌年の1999年、リック・ダンコが急逝した。享年56歳はあまりにも早すぎる。死因は特に発表されていないが、麻薬が関係ないわけがないだろう。以降、ザ・バンドの活動はない。

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