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The Last Waltz(9th) [ザ・バンド(The Band)★完]


The Last Waltz/The Band
(邦題『ラスト・ワルツ』)
(1978)
★★★★

1976年11月25日、サンフランシスコのウィンターランドで催されたザ・バンドの解散コンサートの模様を収めたライブ・アルバム。なのだが、発表時でいえばアナログ3枚組のうちのF面がスタジオ録音だったりと、たんなるライブ・アルバムではない。もちろん、それ以前にこのコンサート自体がたんなるコンサートではないのだが。

よく知られているように、このコンサートはザ・バンドが自らの音楽的旅路の総決算として、アメリカン・ロックを縦軸と横軸の両方から俯瞰するような構成で行われたビッグ・イベントである。ステージにはボブ・ディランをはじめエリック・クラプトン、ドクター・ジョン、ヴァン・モリソン、ニール・ヤングその他、山のようなゲスト・ミュージシャンが参加し、ザ・バンドをバックに自分たちの音楽的成果を披露していく。もちろんザ・バンド単独の演奏もあり、『Rock Of Ages』やディラン名義の『Before The Flood』のようなテンションの高すぎる演奏とはまた違う、自分たちの辿ってきた道のりをしみじみと噛みしめているような演奏が聴けてそれはそれで感慨深いものがあるわけだが、それでもやはりこの作品の聴きどころが豪華なゲスト・ミュージシャンたちとの交歓にあることは間違いない。

このコンサートはまた、マーティン・スコセッシの手によって音楽ドキュメンタリーとして映画化されてもいる。というか、最初からそういう目的のもと計画されたコンサートだったのだ。仕掛け人はロビー・ロバートソンで、他のメンバーはしかたなく付き合っているという感がないわけではないのだが、映画自体は素晴らしい作品に仕上がっている。そしてじつのところ、僕はこの作品をレコードより先にその映画のビデオで体験し、さらに言えば、いまでも僕にとって『The Last Waltz』といえばレコードではなく映画の方だったりするのだ。

実際、この映画は素晴らしい。断言しよう。CDを買うお金があったら、DVDを買うべきだ。内容的には、ところどころメンバーへのインタビューなどザ・バンドが歩んできた道のりを振り返るような構成が差し挟まれながら、ライブが進んでいくというもの。マディー・ウォーターズとザ・バンドなど、夢のような共演の連続を楽しんでいるうちに、いつしかここに登場するミュージシャンたちみんなが作り上げてきた「アメリカン・ロック」というものへの愛を感じ、ザ・バンドの成してきた仕事の偉大さを痛感することができる仕組みになっている。現在まで含めても、音楽ドキュメンタリーというジャンルの最高峰に位置する作品であることは間違いないだろう。こちらのDVDには、迷わず★5つを進呈したい。

レコードの方もそりゃ悪いはずがない。何はなくとも、ヴァン・モリソンの『Tura Lura Lural (That's An Irish Lullaby)』やボビー・チャールズ『Down South In New Orleans』など、映画には入りきらなかったトラックが聴けるというのは大きい。だが贅沢な話なのだが、いちど映像をともなって体験してしまうと、レコードでは若干物足りない感じは残ってしまうのだ。でも、まだライブ部分はいい。先に述べたF面のスタジオ・バージョンあたりになると、たんにレコードで聴き進めてきてそこに至るのと、映画がそこにさしかかったときでは、感動の質というか、受け手の内側に生じるエモーションには大きな違いがあるのだ。これはもう、観てもらうしかない。後半部分に関しては、先に映画の方で体験してから、CDはそのサントラとして聴くというのが圧倒的に正しい順序だと断言してしまおう。★が1つ少ないのは、そういった理由だと思ってもらっていいです。

さて、ここからは作品単体の評価とは別の話になるのだが、この『The Last Waltz』には「完全版」と銘打ったCD4枚組のボックス・セットも出ている。また、何種類あるのかはわからないが、ブートレッグ盤も入手することができる。で、僕は先にブート盤を聴いたのだが、正直ショックだった。「聴かなければよかった」と思ったのだ。

じつは映画を注意深く観ているとわかるのだが、このライブ、プレイヤーの手と出ている音が合っていない箇所がある。つまり、差し替えやオーバー・ダビングが行われているのだ。そのことには早い段階から気づいてはいたが、作品として良いものにするためにはアリだろうと、僕自身はむしろ肯定的にとらえていた。だがしかし。ブート盤を聴いてその認識はちょっと変わってしまった。オリジナルの演奏が、あまりにもひどかったからだ。とくにひどいのがロビー・ロバートソンのギターで、オフィシャル盤(というか映画)では相当に差し替えられ(というかオーバー・ダビングされ)ている。けっこう、幻滅する。

それでも、このブートレッグではリチャードが歌う『Georgia On My Mind』や『Evangeline』のライブ・バージョンなど、貴重なトラックが聴けるからまだいいのかもしれない。それに、編集の手が入っていないため、考えようによっては映画のサントラとしてではなく、純粋なライブとして聴くことができるというメリットもある。ある意味で別物、もうひとつの『The Last Waltz』として楽しむという手はあるだろう。

ところが「完全版」と銘打ったオフィシャルのボックス・セットの方は、演奏こそ「差し替え」クオリティーなのだが、先の2曲のように、ライブでは演奏されたのに入っていないトラックがあるのだ。曲順も基準のよくわからない順序に並び替えられていて、どこが「完全版」なのか理解に苦しむ。「水増し版」と言った方が正しく、そして「水増し」されているのが差し替えられた演奏なのだから、もはや何のためにリリースされているのだかわからない代物となっているのだ。当然、構成が変わってしまっているぶん、映画版と同じような感動も得にくい。そもそも僕はオリジナル作品のアウトテイクやアウトトラックを追加した「完全版」や「コンプリート版」が好きではないし、そこからオリジナル作品を超える感動が生まれることなんてものすごく稀なことだと思っているので、よけいにそう感じるのかもしれないが。

ともかく、ザ・バンドの旅はこの作品をもって終わりを迎えた。こんなふうに、事態があとからどれほど幻滅するような方向に変わっていこうとも、ザ・バンドが残してきた音楽の偉大さが損なわれることはない。そのミュージシャンがどれほど公正だったのかは、唯一、どこまで良い音楽を残すことに対して真摯であったかによってのみ計られる。僕はそう思う。

参考までに、DVDはこちら。


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