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Bob Dylan(1st) ~ Another Side of Bob Dylan(4th) [ボブ・ディラン(Bob Dylan)]

デビュー・アルバムから4枚目まで。一応ここまでが、いわゆるバンド・サウンドを導入する前、アコースティック・ギターとハーモニカを中心に録音されている純粋な「フォーク期」と呼んでいいだろうと考え、ひとまとめにしてみた。


Bob Dylan/Bob Dylan
(邦題『ボブ・ディラン』)
(1962)
☆☆☆☆

このデビュー・アルバムにおける自作曲は「Talkin' New York」「Song For Woody」の2曲のみで、あとはトラッド・フォークやブルースのカバーばかりだ。スタイルは尊敬する放浪のフォーク詩人ウディー・ガスリーを真似たトーキング・ブルース。ギターを掻き鳴らしながら時には呟くように、時には叫ぶように歌い、元気よくハーモニカを吹きまくる。ここでの聴きどころはその若さと、そして歌もギターもハーモニカも、その後のディランの一種独特の「ルーズな」スタイルからすると、驚くほど上手いというところだろう。基礎がしっかりしているからこそ崩すことができたんだなあ、なんてことをつい考えてしまうが、でもそういう感想ばかりで、肝心の音楽に関してはたいした感想が浮かんでこないのも事実だ。たぶんそれは、ここで繰り広げられている音楽がまだ、ある特定のジャンルに簡単に分類できてしまう、とてもローカルなものにとどまっているからなのだと思う。とはいえ、ディランの「フォークな」部分が好きな人には、この若々しさあふれる出発点はとても興味深く聴けるものなのかもしれないが。


The Freewheelin' Bob Dylan/Bob Dylan
(邦題『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』)
(1963)
★★★☆☆

ファーストから一転、このセカンド・アルバムは、ほとんどオリジナル曲で構成されている。それも「Blowin' In The Wind」をはじめとした珠玉の名曲揃いで、ディランのフォーク期の傑作として推す人が多いのも頷ける。でも、個人的には★3つとした。理由は、その名曲たちのほとんどが、後にライブ等で演奏されたバージョンの方が明らかに上だと思うからだ。例えば、「Blowin' In The Wind」はザ・バンドとやったときの怒りを叩きつけるような激しいアレンジの方が断然いい。「A Hard Rain's A-Gonna Fall」はバングラデシュ・コンサートのバージョンの凄さと比べるとどうしても霞んでしまうし、「Don’t Think Twice, It's All Right」に至っては、『At Budokan』のレゲエ調のアレンジの方が好きなのだ。よく知られているように、ディランの音楽の魅力の一つは、同じ曲でもコンセプトを変えたアレンジで別の曲のように聴かせてしまうところにある。そういう意味で、僕にとってこのアルバムは、好きな曲のオリジナル・バージョンがたくさん収められているアルバムという以上の積極的な価値は、あまりないというわけだ。

とはいえ、その唄と演奏のレベルの高さは認めざるをえない。落ち着いた歌いっぷりはとても20歳そこそこの若者のものとは思えず、ファースト・アルバムからの急激な成長を伺わせる。この後のディランのようなうるさいサウンドはあまり好きではないという純フォーク好みの人にとっては、間違いなく歴史的傑作と言えるだろう。

ちなみにこのアルバムで僕が一番好きなのは「Girl From The North Country」である。その後、ライブやセルフ・カバーなどあちこちで聴くことができる名曲だが、ここに収められた叙情あふれる唄と演奏を超えて胸に迫ってくるものはないと思う。


The Times They Are A-Changin'/Bob Dylan
(邦題『時代は変る』)
(1964)
★★★★

サード・アルバムは、初期ディランの中では最もプロテスト色の強い一作である。プロテスト色が強いというのは、つまり歌詞がものすごく具体的なテーマについて書かれているということだ。公民権運動、ベトナム戦争といったそのテーマ自体は今となっては古くさいし、ディラン自身、次の『Another Side of Bob Dylan』からはそういった公的なテーマで歌うことをやめ、私的なテーマを掘り下げて普遍的なものとするような曲作りにトライしはじめている。にも関わらず、このアルバムにはそうした「古さ」を超えた美的価値が詰まっている。ギター一本で「何か」を表現することを突き詰めた末に現れた、究極のスタイルがここにはあり、そしてそれこそが聴く者の魂を鷲づかみにして離さないのだ。その「何か」が多少古いものであろうが、そんなことはお構いなしに。

ここに収められた演奏のすばらしさを文字で伝えることは難しい。構成要素があまりにも少なく、そのシンプルさゆえに途方に暮れてしまうのだ。あえて言うならば、ここではギターを弾き、それに乗せて曲を歌うという行為とは、同じようでいてまったく異なることが行われているような気がする。歌(メロディーと歌詞)とギターとが完全に一体となって、完璧に自在な表現を実現しているのだ。全体としては静かなトーンの中で繰り広げられるその営みは、まるで寄せては返す波のように聴き飽きることはない。ここまでギター一本でやってしまったら、次にディランがやることは一つしかないとすら思わせられる。もちろんその一つとは、バンドによる演奏なのだが。

表現としてのスタイルと曲とがあまりにも合致しすぎているせいか、このアルバムの曲が後にロックの編成でアレンジされて演奏されることは比較的少ない。それゆえ、地味な曲が多いようなイメージもあるが、いやいやどうして、じつは名曲揃いである。表題曲や「The Lonsome Death Of Hattie Carroll」のような淡々としたうねりを持つ曲もいいが、より凄みを感じられるのは「With God On Our Side」のような曲だと思う。7分を超える大作だが、ほとんど同じメロディーを繰り返しているだけなのに、いつまでも聴いていたくなってしまう。僕自身は無宗教な人間だが、ある人の「信者」になってその言葉を聞くというのは、こういう状態なのだろうかとすら思う。ともかく、初期の中で、いまでも時々聴きたくなる唯一のアルバムだ。


Another Side of Bob Dylan/Bob Dylan
(邦題『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』)
(1964)
★★★☆☆

4枚目は、フォークからフォーク・ロックへというサウンドの面でも、それからプロテストからプライヴェートへという曲作りの面でも、いろいろな意味で過渡期的な作品である。

サウンド的には完全にフォークなのに、ここでのディランの歌唱とギターは明らかにドラムとベースを求めている。姿勢はロックだが、サウンドはフォーク。要するに不完全なロック、サウンドが追いついていないロックということなのだが、逆の見方をすれば、フォーク・ギター一本でロックを感じさせる「ぶっとんだ」ディランが聴けるという考え方もある。どっちが正解ということではない。それが「音楽観の相違」というやつなのだろう。そして僕は、前者なのである。

そんなサウンドにもかかわらず、このアルバムが「フォーク・ロックの夜明け」と呼ばれるのは、前述したディランの「ノリ」だけが原因ではない。バーズやタートルズなどのバンドが、ここから多くの曲を(12曲中5曲も!)カバーし、それらがフォーク・ロックの名曲として名を残しているからというのが大きい。「My Back Pages」などはバーズのバージョンが有名で、また出来もいいのだが、そのぶんオリジナルは「未完成の原曲」といった印象を免れない。損な話(?)である。そんなわけで、セカンドの『The Freewheelin' Bob Dylan』の評価を下げたのと同じように、ここでは評価を★3つ止まりとする。

どうもなんだか「過渡期的」というのは良くないことのような話になってしまったが、決してそういうつもりではない。本当に中途半端な作品だと思ったら★2つや1つにするところだ。実際、「It Ain't Me, Babe」や「To Ramona」などは、ここでしか聴けない、この時期のディランならではの名曲だと思う。本当に。

ちなみにこのアルバムは1964年6月9日に、しった1日でレコーディングされたそうである。マイルス・デイビスの有名な「マラソン・セッション」のような話だが、それにしても、これだけ濃密で大きな意味を持つ「過渡期」を、たった1日で走り過ぎていったディランのそのストライドの大きさと、あの時代の変化のスピードの速さには呆れるしかない。

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